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那覇地方裁判所 昭和62年(行ウ)12号 判決 1991年12月25日

那覇市松山二丁目一八番地五

原告

有限会社沖伊興商

右代表者代表取締役

赤嶺清良

右訴訟代理人弁護士

新里恵二

那覇市旭町九番地

被告

那覇税務署長 饒平名卓

右指定代理人

松本清隆

大脇通孝

坂井正生

新垣栄八郎

読山司

玉城淳

石原洋

藤井典明

主文

一  被告が、原告に対し、昭和五八年五月二三日付けでした、

1  原告の昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分及び重加算税の各賦課決定処分のうち、所得金額四、八二三万六、二九七円を超える部分

2  昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度の法人税についての更正処分及び重加算税の各賦課決定処分のうち、所得金額七、八九二万九、八五八円を超える部分

をいずれも取消す。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

1  被告が、原告に対し、昭和五八年五月二三日付けでした、原告の昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日まで、昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日まで、昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日まで、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日まで、昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの各事業年度の法人税についての更正処分及び重加算税の各賦課決定処分を取消す。

2  被告が、原告に対し、昭和五八年五月二三日付けでした原告の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度以後の法人税の青色申告承認を取消した処分を取消す。

第二事案の概要

本件は、被告が、原告に対し、昭和五八年五月二三日付けでした、

<1>  原告の昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日まで、昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日まで、昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日まで、昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日まで、昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの各事業年度(以下それぞれ、「昭和五三年三月期分」、「昭和五四年三月期分」、「昭和五五年三月期分」、「昭和五六年三月期分」、「昭和五七年三月期分」という。)の法人税についての更正処分及び重加算税の各賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)

<2>  原告の昭和五七年三月期分の事業年度以後の法人税の青色申告承認を取消した処分(以下「本件青色申告取消処分」という。)

の各取消を求めた事案である。

一  争いのない事実

1 原告は、貸金業を営む有限会社である。

2 原告が、昭和五三年三月期分から昭和五七年三月期分までの法人税についてした確定申告、修正申告、更正の請求及び被告が右各事業年度の法人税についてした更正決定の経緯は、別表(1)-1ないし3の各事業年度の「確定申告」「修正申告」「更正請求」及び「更正」欄記載のとおりである。

3 被告は、更に、昭和五八年五月二三日付けで、原告に対し、本件青色申告承認取消処分を行うとともに、昭和五三年三月期から昭和五七年三月期分までの法人税について、別表(1)-1ないし3の「再更正」欄記載のとおり本件更正処分等をした。

4 原告は、昭和五八年七月二五日本件各処分に対し異議申立てをしたが、昭和五九年四月一八日付けでそれぞれ異議申立てをいずれも棄却する旨の決定を受けた。そこで原告は、昭和五九年五月一九日付けで、国税不服審判所沖縄事務所首席国税審判官に対し各審査請求をしたが、同庁は昭和六二年七月一日付けで各審査請求をいずれも棄却する裁決をし、原告は、同月三日、右裁決の通知を受けた。

二  争点

1 被告の主張

(一) 別表(10)の<1>ないし<6>の各預金口座(以下単に「<1>の預金口座」などという。また、<1>ないし<6>の預金口座を総称して「本件預金口座」ともいう。)は、原告の公表外の貸付元本及び受取利息の受入れに使用されており、その受取利息及び預金利息はいずれも原告に帰属する。

(二) 被告は、原告に対して税務調査を行ったが、本件預金口座にかかる公表外の帳簿書類等については極めて限られた期間のものしか原告から提示を受けることができなかったことから、本件預金口座にかかる入出金伝票のある期間についてはこれに基づき受取利息を把握したが、入出金伝票の存在しない期間の公表外の受取利息については、他に実額で算定する資料が存在しなかったため、推計せざるを得なかった。

そして、右存在する入出金伝票とこれに対応する預金口座の銀行元帳に記載された入金状況とを照合、分析することによって、入出金伝票の存在しない期間についての銀行元帳に記載された入金状況から推計していくという方法を採用した。

(三) このようにして、被告が認定した受取利息及び預金利息の額はそれぞれ別表(2)-1、2の<15><16>欄記載のとおりであり、被告は、これに基づき前記一3のとおり更正処分を行った。

なお、その後、右推計に際して一部受取利息額の抽出の誤りや誤記があったので、正しい所得金額等は別表(9)のとおりとなる。

(四) 以上のとおり、原告は、本件預金口座を利用して、収入金額を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出したものであるから、被告は、原告に対し、国税通則法六八条一項に基づき、重加算税の賦課決定を行い、法人税法一二七条一項三号に基づき、青色申告承認の取消処分を行ったものである。

2 原告の主張

(一) 本件預金口座はいずれも原告に帰属するものではない。

すなわち、

(1) <1><2><5><6>の預金口座は原告の当時の代表者伊是名興徳(以下「伊是名」という。)が個人で営んでいた貸金業にかかるものであって、右個人事業から生ずる収益は伊是名個人に帰属するものである。

(2) <3>の預金口座は、伊是名が原告からの役員報酬を受け入れたり、個人的な買物をしたりするための口座で貸金業とは全く無関係の預金口座である。

(3) <4>の預金口座は、原告の従業員座間味英利(以下「座間味」という。)が原告から支払を受けた手数料を入金していたもので、右預金口座は座間味に帰属するものである。

(二) したがって、本件更正決定等及び本件青色申告取消処分は違法であって取消されるべきものである。

3 従って、本件の争点は、(一)本件預金口座が原告に帰属するか否か、特に伊是名の個人事業が存在するか否か、(二)本件預金口座に入金された受取利息及び預金利息の額、特に受取利息の推計の適否である。

第二争点に対する判断

一  本件預金口座の帰属について

1  <1><2><5><6>の預金口座について-個人事業の存在について

(一) 証人伊是名は、原告とは別に伊是名個人でも金融業を営んでおり、<1><2><5><6>の預金口座は右個人事業のために使用されており、したがって右預金口座は伊是名個人に帰属するものであると供述し、さらに、個人事業の存在について、原告の従業員とは別に伊是名個人が雇用している従業員がおり、賃金台帳も別個に存在し、経理の現金出納簿、入出金伝票なども区別されていたとも供述している。

(二) しかしながら、以下の(1)ないし(12)の諸事実によれば、原告とは別個に伊是名の個人事業の実体が存在するものとは到底認められない。

そして、<1><2><5><6>の預金口座が貸金業に使用されていたことは伊是名自身認めるところであるから、これらの預金口座は結局原告に帰属するものと認められる。

なお、賃金台帳上原告の従業員と個人事業の従業員が区別された形態となっており、<1>の預金口座は昭和五〇年五月一日原告設立前の昭和四九年七月二四日に開設されたものであることが認められる(甲第一八号証の一、二、第七号証の一ないし八、第二八号証の一の一ないし一四、同号証の二の一ないし四〇、証人伊是名)が、このことが前記認定を左右するものではない。

(1) 原告は、昭和五〇年五月一日に伊是名によって設立された貸金業を営む有限会社で、伊是名は現在同社の取締役会長となっているが、昭和六二年八月まで同社の代表取締役の地位にあった。同社の出資の総額は昭和五六年三月期までは三〇〇万円、昭和五七年三月期は一、二〇〇万円でうち伊是名の出資金額はそれぞれ二〇〇万円、六〇〇万円で、同社はいわゆる伊是名の同族会社である。

(乙第五〇二号証ないし五〇五号証の各一、二、証人伊是名、弁論の全趣旨)

(2) <5>の預金口座の名義人の我謝和子は伊是名の内縁の妻、<6>の預金口座の名義人の伊是名興昌は伊是名の長男である(乙第五〇五号証の一、証人伊是名、弁論の全趣旨)。

(3) 伊是名は、個人で雇っている従業員も原告の事務所で勤務し、個人事業も原告の事務所で行われていたことを認めている(証人伊是名)。

(4) 伊是名は個人事業の従業員が誰であったかについて明確な記憶がないうえ、この点についての賃金台帳の記載、原告代表者及び座間味の供述間にも相互に大きな食い違いがある。また、賃金台帳上伊是名の個人事業の従業員となっている者も個人事業の仕事をしていたという意識はない。

座間味も、昭和五三年三、四月ころ、伊是名個人の貸金業に雇われ、一年後からは原告に雇われるようになったと供述するが、当初個人の仕事をしていることはわからなかった、会社の仕事も個人事業の仕事も一緒にしていたと供述している(以上、甲第七号証の一ないし八、第二八号証の一の一ないし一四、同八号証の二の一ないし四〇、乙第一号証の一、二、証人伊是名、同座間味、原告代表者)。

(5) そして、後述する原告事務所における国税調査官らの税務調査の際、原告の従業員の机の引出しに本件口座番号が記載されたメモ書きが貼ってあり、このことから同預金口座の存在を被告が知るところとなった。また、原告名義の預金口座と個人名義の預金口座には別個に金銭出納帳が作成されているが、作成事務は女子事務員が共同して行っていた(乙第一号証の一、第一三五号証、証人芳賀充)。

このことから、本件預金口座は、原告の事務所で原告の従業員によって管理されていたことが推認される。

(6) 伊是名の個人事業についての経費を伊是名個人が支払っていたことを窺わせる証拠はなく、むしろ、賃金台帳上個人事業の従業員となっている者についての経費も原告の従業員と同様に原告から支払われている(甲第七号証の一ないし八、第二八号証の一の一ないし一四、同号証の二の一ないし四〇、乙第二号証の一ないし八)。

(7) <1>の預金口座、<2>の預金口座あるいはその前身と原告が主張する伊是名名義の口座から貸付けについて作成された借用証書には原告が債権者となっている(甲第一二号証の一、二、第一三号証、乙第三ないし第一〇号証の各一、二、弁論の全趣旨)。

(8) 座間味は、個人で貸すのか会社で貸すのかは伊是名自身が決めると供述し、伊是名も原告に金がある時は、原告が貸し、原告に金がないときは伊是名個人で貸していたと供述している(証人座間味、同伊是名)。

この供述によっても、個人事業と原告の事業との区別は極めてあいまいである。

(9) 伊是名は、個人で金融業をやっていると焦げ付きが出ても繰越ができないので原告会社を作った旨供述しており(証人伊是名)、そうとするならば、原告の他に個人事業を維持する理由はない。

(10) 伊是名は個人で貸金業を営むについて監督官庁への届出をしておらず、税務申告もしたことはない(証人伊是名)。また、前記賃金台帳を除いては証拠上個人事業にかかる帳簿等の存在も窺われない。

(11) <5>及び<6>の口座を我謝和子及び伊是名興昌の名義にしたのは、銀行からの借入等の際、同人らが預金を有していた方が借入等にあたって有利であるからと伊是名は供述する(証人伊是名)が、原告や伊是名は銀行から借入をしたことはない(証人伊是名)ことからすれば、右の説明は不自然である。

(12) 原告は、税務調査の際には、伊是名の個人事業の存在について何ら主張しておらず、本件更正処分に対する異議申立の段階で初めて主張するに至った(証人伊是名、同芳賀充)。

2  <3>の預金口座について

(一)(1) 伊是名は、<3>の預金口座は、伊是名が原告からの役員報酬月額二四万五、八七〇円を受入れたり、個人の消費生活用品等を購入するために使用しており、金銭貸付けには使用したことはない、この預金口座に限ってキャッシュカードを使っていたと供述する(証人伊是名)。

(2) 確かに、同預金口座の預金元帳には、同預金口座には昭和五五年九月から昭和五六年六月までの間毎月五日前後に二四万五、八七〇円、同年七月から同年九月までの間毎月五日前後に二九万一、一五〇円、同年一〇月から昭和五七年三月までの間毎月五日前後に二八万三、九九〇円が給与として入金された旨の記載があり、これが伊是名の役員報酬に相当する金額であることが認められる(乙第五〇〇号証の一〇六ないし一一五、一六三ないし一七九)。

(二)(1) しかし、<3>の預金口座の存在が被告の知るところとなった経緯は前記1(二)(5)のとおりであり、このことから、原告の事務所で原告の従業員によって管理されていたことが推認される。

(2) また、<3>の預金口座についても、<1><2><5><6>の預金口座と同様に数十万円ないし数百万円単位の多額の金員の入出金が頻繁になされていることも認められる(乙第五〇〇号証の一ないし二〇〇)。

そうすると、<3>の預金口座もまた原告に帰属し、原告の受取利息の受入れに使用されていたものというべきであって、伊是名の役員報酬が同口座に振込まれていたことは右の認定の妨げとはならない。

なお、後記二2(二)の受取利息の推計においては同預金口座の預金元帳の摘要欄に給与として記載されている分は受取利息と認定していない。

3  <4>の預金口座について

(一) 伊是名及び座間味は、原告の従業員である座間味英利が紹介した顧客の貸付けについては座間味が顧客から手数料を貰っており、<4>の預金口座は右の手数料の受入れに使用されていた、同預金口座の印鑑は座間味が保管し、金銭の出し入れも座間味が管理していたと供述する(証人伊是名、証人座間味)。

そして、手数料の額について、証人座間味は、同人が顧客を紹介した場合、利息は座間味が決め、原告には五パーセントないし七パーセントまでの利息を納め、残りの分を座間味が手数料として貰うという約束であったと供述している。

(二) しかしながら、以下の事実によれば、右の供述は到底信用することはできず、<4>の預金口座もまた原告に帰属するものと認められ、右の手数料の実体は原告が顧客から支払われる受取利息に他ならない。

(1) <4>の預金口座の名義人である座間味を伊是名の甥にあたる(証人伊是名、同座間味)。

(2) 証人座間味は、<4>の預金口座は座間味の手数料収入を預金するために開設され、専ら手数料を預金していた、原告から支払われる座間味の給料も別の預金口座に振込けまれていたと供述する。

しかし、<4>の預金口座については昭和五四年二月一五日の新規開設当初から、数十万円ないし数百万円の入出金(小切手による入金を含む。)が頻繁に繰り返されており、この点についての座間味の説明はあいまいである。(甲第二〇号証の一ないし一〇の各一、二、乙第五〇〇号証の三二、三三、五五ないし六六、一一六ないし一二九、一八〇ないし一九三、証人座間味)。

(3) <4>の口座からは原告の若松薬品からの借入金の利息が支払われている。証人座間味は同人が原告のため何度か毎月二〇万円の利息を立て替えたものであると供述するが不自然である。

(4) 右(3)の利息の支払や右(2)の手数料の受取については、<4>の預金口座に係る入出金伝票が作成され原告の事務所に保管されていた。この入出金伝票は、受取利息にかかる入金伝票(原告が伊是名の個人事業と主張するもの)と同様に座間味の承認印(あるいはこれに加えて原告の従業員の係員)が押捺されており、女子事務員が入出金の手続を行っていた(乙第一一、第一二号証の一、二、第一三号証の二、第一九号証ないし一三四号証、第一五八ないし四九六号証、証人座間味)。

右の事実及び前記1(二)(5)で認定した事実からも、<4>の口座も原告の従業員によって管理されていたことが認められる。

手数料収入が座間味の個人の収入であって、<4>の口座が同人個人に帰属するものであるとするならば、なぜ右のような入出金伝票が作成され、原告の従業員によって管理されているのか極めて不可解である。

(5) 座間味は、伊是名個人の上原勉に対する貸金一、七四六万一〇三六円を座間味が回収した場合などに、<4>の預金口座に一時的に振り込んでおいたことがあることも認めている(乙第一一、第一二号証、第一四号証の各一、二、証人座間味)。

(6) 座間味は、<4>の口座の他にも銀行口座を有していたが、他の口座については住所地を浦添市字勢理客一三〇と記載しながら、<4>の口座については原告所在地を住所としている(乙第四九七号証の1ないし三)。

(7) <4>の預金口座は昭和五八年三月一六日に解約されているが、解約時の残金一〇七万八、二二九円が原告従業員の照屋勇名義の口座に振り替えられている。さらに、右の照屋勇名義の預金口座は昭和六〇年八月九日に解約され、解約時の残金が、伊是名興昌名義の口座き解約時の残金とともに、伊是名興徳名義の口座に振り替えられている(乙第四九八号証の一、二、第四九九号証の一ないし五)。

(8) 座間味は、顧客を紹介した場合、個人で貸すか、原告が貸すかは貸付の段階で伊是名の指示によって決まるが、個人で貸す場合には手数料を取らないと供述し、伊是名も、原告に金がある時は原告が貸し、原告に金がないときは伊是名個人で貸していたと供述している(証人座間味、同伊是名)が、手数料を貰う約束としては不自然である。

(9) 原告及び座間味は、<4>の預金口座が座間味個人のものであることについて本件更正処分の異議申立段階で初めて主張するに至った(証人座間味)。

(10) 座間味が顧客の紹介手数料収入について自分の所得である旨の所得税の確定申告書を提出したことは証拠上窺われない。

二  本件預金口座に入金された受取利息の額について

1  実額による認定

(一) <1>の預金口座について

昭和五六年九月から同年一二月までの<1>の預金口座にかかる顧客からの受取利息の入金伝票が存在する(乙第一九ないし第一三四号証)。そして、被告は同期間の同預金口座に係る受取利息の額を別表(11)-5の<1>の預金口座の同期間の欄記載のとおり認定した(乙第一四二号証の一)。

ところで、右入金伝票によれば、右の期間中に同預金口座に受取利息として入金された月別の合計額は別表(12)-5の「受取利息認定額集計表」の<1>の預金口座の同期間の欄記載のとおりであり、以下の部分を除き、被告の認定額と同一と認められる。

(1) 被告は、同年一〇月分を四二五万二、九〇〇円と認定しているが、右は計算違いで、四三四万五、五〇〇円が正しい。

(2) 被告は、同年一一月分の合計を三〇七万五、八三〇円と認定しているが、計算違いがあること及び同月九日に九万一、〇八〇円の受取利息の入金があったことは証拠上認められないことから、三〇二万一、四五〇円が正しい(乙第四二ないし五二号証、第五三号証の二、第五四ないし第一一〇号証、第一四二号証の一)。

(二) また、昭和五六年四月から昭和五七年三月までの<4>の預金口座について手数料の名目で入金された入伝票も存在する(乙第一五八ないし第四九六号証)。

そして、前記一3のとおり、右の手数料の実体は原告の受取利息と認められるところ、右の期間中の同預金口座にかかる受取利息として被告が認定した額は別表(11)-5の<4>の預金口座の同期間の欄記載のとおりである(乙第四一二号証の四)。

そうして、右入金伝票によれば、右の期間中に<4>の預金口座に受取利息として入金された月別の合計額は別表(12)-5の「受取利息認定額集計表」の<4>の預金口座の同期間の欄記載のとおりであり、以下の部分を除き、被告の認定額と同一と認められる。

(1) 昭和五六年六月分、八月分は計算違いで、六月分は、三三万四、八一二円、八月分は三二万二、七五〇円が正しい。

(2) 被告は、同年一二月一一日に一、四〇〇円の受取利息の入金があったとして計算し、同年一二月分の合計を五八万一、九〇〇円と認定しているが、同月一一日に実際には、一万四、〇〇〇円の入金があったことが認められるので、合計五九万四、五〇〇円となる(乙第四一七号証)。

2  推計による認定

(一) 推計の必要性について

(1) 昭和五八年一月二一日午前一〇時、被告の命を受けた芳賀充那覇税務署国税調査官ら合計五名が原告事務所に臨場し、原告の経理責任者の赤嶺清良(以下「赤嶺」という。)らに法人税の税務調査のため来社した旨を告げ、代表者の同席を求めたところ、代表者の伊是名は不在であるとの説明を受けた。赤嶺は二回にわたり伊是名と電話で連絡をとり、芳賀らはその都度赤嶺から伊是名はすぐに出社する旨の回答を得たため、伊是名の出社を待ったが、約一時間待っても伊是名が出社しないので、午前一一時ころから、赤嶺の了解を得て同人立会いのもとで税務調査を開始した。

調査の結果、女子事務員宮城克子の使用していた事務室の机の引出しからは、公表の銀行預金口座の口座番号のほかに公表外の本件預金口座の口座番号を記載したメモ書きが発見されたほか、事務室の作り棚からは右公表外の預金口座にかかる入出金伝票として、昭和五六年九月から同年一二月までの期間の<1>の預金口座に係る受取利息の入金伝票と昭和五六年四月から昭和五七年三月までの期間の<4>の預金口座にかかる手数料の入金伝票が見つかり、芳賀らは原告からその提出を受けた。

しかしながら、本件預金口座に係る伝票類は一部しかなかったので、芳賀は他のものも提出するよう赤嶺に求めたところ、同人は古い伝票は廃棄したと答えた。

一、二か月後、芳賀は、伊是名、赤嶺及び同社の顧問税理士であった新垣税理士を那覇税務署に呼び、本件預金口座や本件預金口座に係る伝票について説明を求めたが、明確な説明は得られず、後で調べて集計するとの返事だった。

芳賀は、同年四月二八日に、赤嶺から一年分ほどの<1><5>の預金口座に係る受取利息及び<4>の預金口座にかかる受取手数料の集計表の提出を受けたが、前記提出を受けた入金伝票が存在する期間を除いては、右集計表の金額には裏付けがなく貸付元金、利率、期間などの具体的な内容も記載されていなかったので、芳賀は、赤嶺に対し、過去五年分について再度調査するよう求めた。しかし、原告からは他には資料はないとして、被告の再三にわたる催促にもかかわらず資料の提出も、調査結果の報告もなかった(以上、乙第一六ないし第一三七号証、第一四三、第一四四号証、証人芳賀充)。

(2) 右(1)の事実及び既に認定した事実によれば、本件預金口座はいずれも原告に帰属するものであって、かつ原告の貸付金に対する受取利息の受入れに使用されていたものであることが認められるところ、本件預金口座に入金された受取利息の金額については、前記1で認定した一部の期間を除いては入金伝票等の資料がなく実額で把握することはできなかったのであるから、推計課税の必要性があったものと認められる。

(3) なお、伊是名及び赤嶺の供述中には、税務調査の方法に不服を述べている部分がある(証人伊是名、原告代表者)が、右(1)で掲記した証拠によれば、本件の税務調査における書類等の閲覧、提出はいずれも赤嶺ほか関係者の任意の承諾を得てなされたものと認められるから、本件の税務調査に本件更正処分等に影響を及ぼす違法が認められないことは明らかである。

(二) 推計の合理性について

(1)  推計の方法

被告は、<1>の口座の銀行元帳に記載された入金状況と同口座にかかる昭和五六年一〇月分から同年一二月分までの公表外の入出金伝票による受取利息の入金額とを対照、分析した結果、次の事実が明らかとなった。

a 受取利息一件の最高額は、六七万八、三〇〇円、最低額は一、〇〇〇円で、おおむね五〇万円以下である。

b 受取利息一件毎に銀行入金されている場合は比較的少なく、複数の受取利息をまとめて銀行入金されている場合が多い。

c 貸付金元本の返済された場合の銀行入金は高額のものが多い。

d 受取利息が直ちに貸付金に回され、銀行入金されない受取利息も存在する。

e 銀行入金されているものの中には、立替金としての入金もある。

f 銀行口座の入金総額に対する受取利息の割合は、<1>の口座の昭和五六年九月分から同年一二月分までについては二一パーセント、<4>の口座の昭和五六年四月から昭和五七年三月までについては二〇パーセントである。

g 銀行元帳の摘要欄の記載からみて、入金のうち受取利息とは別の理由による入金であることが明らかなものがある。

そこで、被告は、以下の基準に従って、入出金伝票のない期間、預金口座については、当該預金口座の入金状況から受取利息の金額を推計して抽出するという方法を採用した。

a 受取利息の入金として認定する場合における一回の銀行入金額はおおむね五〇万円以下とする。

b 端数のない高額の入金は受取利息には計上しない。

c 端数のある高額入金で貸付金の返済と考えられる入金については、端数金を受取利息とする。

d 銀行元帳の摘要欄を参考にする。

e 銀行入金総額に占める受取利息の割合をおおむね二〇パーセント以下とする(乙第四二ないし五二号証、第五三号証の二、第五四号証ないし一三四号証、第一五八ないし四九六号証、第五〇〇号証の一ないし七、一八〇ないし一九三、弁論の全趣旨)。

そして、右の方法は、具体的な抽出、計算の方法を誤らない限り、合理的なものとして是認することができる。

(2)  推計による受取利息の金額

そこで、右(1)の推計方法に従って、受取利息の額を検討する。

本件更正処分等にあたり被告が受取利息として認定した額は、別表(11)-1ないし5記載のとおりである(ただし、前記1の実額による認定部分を除く。乙第一三八号証の一ないし一二、第一三九号証の一ないし四、第一四〇号証の一ないし六、第一四一号証の一ないし八、第一四二号証の一ないし一二)。

これを本件預金口座の入金状況(乙第五〇〇号証の八ないし一七九、一九四ないし二〇〇)と対比すれば、以下の点を除き、右認定額は妥当なものと認められる。

a 昭和五四年三月期分について

<1>の預金口座について、昭和五三年九月分の受取利息の合計を一九九万五、五一〇円と認定しているが、一九九万五、五〇〇円の計算違いである(乙第一三九号証の一)。

b 昭和五五年三月期分について

ア <1>の預金口座について

(ア) 昭和五四年八月六日に二〇万円、同月一五日に三〇万円の受取利息の入金を認定している(乙第一四〇号証の一)が、右金額はいずれも同口座への入金ではなく、同口座からの出金であるから、これを受取利息として計上することはできない(乙第五〇〇号証の三八)。

したがって、同月の合計は二九二万五、〇〇〇円となる。

(イ) 昭和五四年一〇月九日に三〇万円の受取利息の入金を認定している(乙第一四〇号証の一)が、これも同口座への入金ではなく、同口座からの出金である。一方、同月一五日に二八万円の入金があるから同額を受取利息として認定すべきであるところ、被告は二〇万円の入金と誤って同額を認定している(乙第五〇〇号証の四一)。

したがって、同月の合計は三九一万八、五〇〇円となる。

(ウ) 昭和五五年一月二一日に一〇万円の受取利息の入金を認定している(乙第一四一号証の一)が、同口座への入金ではなく、同口座からの出金である(乙第五〇〇号証の四四、四五)。

したがって、同月の合計は四五一万四、一〇〇円となる。

c 昭和五六年三月期分について

<1>の預金口座について、昭和五五年一〇月九日の一〇四万円の入金に対し四万八、〇〇〇円の受取利息の入金を認定している(乙第一四一号証の一)が、四万円を受取利息として計上すべきである(乙第五〇〇号証の八〇、八一)。

したがって、同月の合計は一六四万七、五〇〇円となる。

d 昭和五七年三月期分について

ア <1>の預金口座について

(ア) 昭和五六年五月一四日に一万円の受取利息の入金を認定している(乙第一四二号証の一)が、同口座への入金ではなく、同口座からの出金である(乙第五〇〇号証の一三二、一三三)。

したがって、同月の合計は三四九万円となる。

(イ) 昭和五七年一月一二日に三二万六、一〇〇円の受取利息の入金を認定している(乙第一四二号証の一)が、入金額は二二万六、一〇〇円である(乙第五〇〇号証の一四七)。

したがって、同月の合計は一三四万六、七一〇円となる。

イ <3>の預金口座について

(ア) 昭和五六年五月一六日に一七万円の受取利息の入金を認定している(乙第一四二号証の三)が、同口座への入金ではなく、同口座からの出金である(乙第五〇〇号証の一六四、一六五)。

したがって、同月の合計は二二六万六、二〇〇円となる。

(イ) 昭和五六年七月四日に二九万一、一五〇円の受取利息の入金を認定している(乙第一四二号証の三)が、これは預金元帳の摘要欄には給与と記載されており、前記一2(一)(2)で認定したとおり、伊是名の役員報酬の入金と考えられるから、これを受取利息として認定することは合理的ではない(乙第五〇〇号証の一六七、一六八)。

したがって、同月の合計は六六万一、〇〇〇円となる。

以上によれば、推計の方法による本件預金口座にかかる受取利息の月別の合計額は、別表(12)-1ないし5の「受取利息認定額集計表」記載のとおりであると認められる(前記1において実額を認定した部分を除く。)。

三  本件預金口座に入金された預金利息の額について

前記のとおり本件預金口座がいずれも原告に帰属するものである以上、その預金利息も当然原告に帰属するものである。

そして、右預金利息の金額は別表(10)のとおりである(乙第一三八号証の二、第一三九号証の三、四、第一四〇号証の四ないし六、第一四一号証の五ないし八、第一四二号証の七ないし一二、第五〇〇号証の一ないし二〇〇)。

四  原告の所得金額について

原告の昭和五三年三月期分から昭和五七年三月期分までの各事業年度の法人税の所得金額は、別表(13)-1、2の23欄記載のとおりである。すなわち、

1  原告の申告漏れにかかる受取利息及び預金利息の額は前記二、三で認定したとおりであり、これは益金に算入されるべきものであるから、申告所得金額に加算される(別表(13)-1、2の<15><16>欄記載のとおり)。

一方、前記一1(二)(6)及び(10)の事実からすれば、右の公表外の部分について経費は存在しないものと認められる。

2  右の所得金額増加に伴い、原告が支払うべき未納事業税は同表<18>欄記載のとおりとなる(計算根拠は別表(14)のとおり)が、未納事業税相当額は、原告の所得から減額しなければならない。

3  また、昭和五六年三月期分及び昭和五七年三月期分の修正申告において損金不算入とされた寄付金額(別表(2)-2の<12>欄記載)も損金としての算入が認められる(別表(13)-2の<20>欄記載のとおり、なお、計算根拠は別表(15))。

(以上、乙第五〇二ないし五〇五号証の各一、二)

五  本件更正処分等について

1  すでに認定した事実によれば、原告は、本件預金口座を用いて受取利息及び預金利息を隠ぺい及び仮装し、これに基づき納税申告書を提出していたものと認められるから、国税通則法六八条一項により重加算税の支払義務を免れない。

2  そうすると、原告の法人税の所得金額は、昭和五四年三月期分は三、〇七七万三、五九六円、昭和五五年三月期分は四、八二三万六、二九七円、昭和五六年三月期分は四、六七六万五、九五四円、昭和五七年三月期分は七、八九二万九、八五八円であり、本件更正処分等は昭和五五年三月期分及び昭和五七年三月期分については前記の所得金額を超える限度で取消されるべきである。尚、昭和五四年三月期分については、更正処分の額が三、〇七七万三、六〇六円であるところ、所得金額は三、〇七七万三、五九六円と一〇円少なくなるだけであるため、被告の認定した法人税及び重加算税の額に影響を及ぼすものではないから、取消す必要はない。そして昭和五三年三月期分については更正処分の所得金額と同一であり、昭和五六年三月期分については更正処分の所得金額を上回るものであるから、法人税の所得金額について、過大に認定した違法はない。

六  本件青色申告承認取消処分について

右五1と同様の理由で、法人税法一二七条一項三号に基づき被告のなした本件青色申告承認取消処分は適法である。

(裁判長裁判官 大工強 裁判官 加藤正男 裁判官 大竹優子)

別表(1)-1

本件課税の経過

<省略>

別表(1)-2

<省略>

別表(1)-3

<省略>

別表(2)-1

所得金額の計算

<省略>

別表(2)-2

<省略>

別表(3)

法人税額の計算 (調査額)

<省略>

別表(4)

土地譲渡利益及び税額の計算 (申告額)

<省略>

別表(7)

譲渡した土地等の帳簿価額の累計額の計算

<省略>

<省略>

別表(5)

課税留保金額の計算及び留保税額 (調査額) (法681、令140)

<省略>

別表(6)

未納事業税の計算 (調査額) (地方税法72条の22)

<省略>

別表(8)

寄付金の損金算入額等の計算

<省略>

別表(9)

法人税額の計算

<省略>

別表(10)

預金口座別預金利息

<省略>

別表(11)-1

昭和52年4月1日~昭和53年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(11)-2

昭和53年4月1日~昭和54年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(11)-3

昭和54年4月1日~昭和55年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(11)-4

昭和55年4月1日~昭和56年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(11)-5

昭和56年4月1日~昭和57年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(12)-1

(昭和53年3月期分)

昭和52年4月1日~昭和53年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(12)-2

(昭和54年3月期分)

昭和53年4月1日~昭和54年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(12)-3

(昭和55年3月期分)

昭和54年4月1日~昭和55年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(12)-4

(昭和56年3月期分)

昭和55年4月1日~昭和56年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(12)-5

(昭和57年3月期分)

昭和56年4月1日~昭和57年3月31日事業年度分受取利息認定額集計表

<省略>

別表(13)-1

所得金額の計算

<省略>

別表(13)-2

<省略>

別表(14)

未納事業税の計算 (調査額) (地方税法72条の22)

<省略>

別表(15)

寄付金の損金算入額等の計算

<省略>

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